医療人の育成に関する留萌コホートピアの考え方
プライマリケアにおける5原則、近接性accessibility、包括性comprehensiveness、継続性continuity、協調性coordination、責任性accountabilityのすべてはコホートピア構想の理念にあてはまります。それは常に、住民のみなさんの身近にあり、医学の分野を超えて、ずーっと一緒に、多くの医療者・職種の人々と地域住民の協調によって、地域に健康と安心を築くという約束を果たそうとするからです。そして、こうした理念の実現のためには、健康問題に関する身近な窓口であり、地域包括ケアの調整役である家庭医が、活動の主体となることが自然であり、またそうあるべきだと私たちは考えています。
臨床研修の場としての魅力に欠けるが故、多くの若い医師たちが地域から離れていく傾向がある現在、北海道の地域が特色ある医学教育・研修の機会を提供することはとても大事です。疾病予防、疾病マネージメント、地域包括ケアを担う専門家としての家庭医を育成する環境を地域の総力を挙げて整備することが、今後若い医学徒を地域に呼び戻す求心力になると私たちは考えています。コホートピア構想は、家庭医療の専門家を目指す若い研修医たちに、コホート研究を通じて、work-based learning(研修)と work-based investigation(研究)の機会を提供し、その支援を行っていきたいと考えています。留萌コホートピア構想は、家庭医たち、基幹病院(留萌市立病院)の医師たち、そして大学の研究者たちをつなぐ架け橋になることで、大学の研究者たちには高度な医学研究の機会を、家庭医・研修医たちには家庭医療の専門的研究により学術的な発表や学位取得の機会を、基幹病院の医師には大学や都市部の基幹病院との密接な連携をもたらしたいと考えています。
そしてあらゆる職種の医療人の育成
救命救急士・看護師・保健師・助産師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・言語療法士・ケースワーカー・介護支援専門員・介護福祉士・治験コーディネーターなど、あらゆる医療人の育成を留萌コホートピアは積極的に行いたいと考えています。それは、それらの職種の経験ある人々が後輩を育てるということのみでなく、職種を超えて幅広い交流の場を作ることが大事だと考えています。お互いから多くのことを学べ、視野を広げて医療を考える重要な機会となるからです。こうした人材育成で若い看護師をひきつけている病院があります。留萌の近隣の砂川市立病院です。看護師の育成に力を入れ、若い看護師を31人も獲得し、道内の自治体病院中数少ない黒字病院人口2万1千人ながら、平成18年度100億9千万円の収益、経常利益1,837万円の黒字となりました。埼玉県にある彩北ネットワーク10という医療人のネットワークが作った「だれもが安心して暮らせるまちへ右クリックでpdfファイルを保存」というパンフレットと「地域ケアの指標右クリックでエクセルファイルを保存」というチェックシートがあります。これらには行政からはじまり全ての医療職の体制・資源のあるべき姿が多くの項目として示されています。もし留萌コホートピアが医療のユートピアを作ろうと思うならば、これらのほとんど全ての項目について、真剣に考えていくことが重要だと私たちは信じています。こうした努力の輪を広げていくことで、道北連携地域の「安心して暮らせるまちプロジェクト」の目的が達成されるのです。どうか、多くの方々が2009年4月から始まるこの留萌コホートピアの輪に参加していただくことを期待しております。
大学との関係について
地域医療の現場を良く知る国保川上村診療所長の長(ちょう)純一医師による『医療タイムス』記事を引用します。
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……一番の問題は、実は地方の医学部に地方出身者が少なく、
都市部出身者が多いことが最大の理由ではないか。
信大でも本県(長野県)出身者は例年2割いるかどうかであろうし、
小生が接する全国の医学生から各大学の状況を聞いても地元は
3割くらいの所が多く、さらに町村の出身者となると非常に少ない。
つまり都会で私立一貫校や塾など多額の投資をした者が、
地方の医学部に多く進学しているという実態がある。
その者らが、従来は都市の大学の医局に「外様」で戻るより
母校の医局に残ることがメリットが多いと判断していたのが、
昨今の地方の切り捨てという世間の風潮の中、
地方に残ることを避ける傾向にあり、
ちょうど新制度で都市に研修病院が増えたことが重なり、
都市に戻るようになったのが、地方の医師不足の主因だろう。
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留萌コホートピアは地域の病院が魅力的になることで、「メリットが多い」と医師に思ってもらうことをめざしていますが、地域の大学についても医局に残ることの「メリットが多い」と思ってくれるように、関係してくれる医局・大学を全力で応援いたしたいと思います。大学と地域の病院がともに生き残るには相互の協力が必要と思うからです。