人間が毎年、齢をとる(年齢を重ねる)ことは避けられないことです。しかし、同じ年齢でも若く見え体力も保たれ、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣に起因する病的老化状態がない人と、そうでない人がいます。前者は、サクセスフルエイジング(成功加齢)をなし得た人であり、その対極には病的加齢=不成功加齢に陥った人がいます。アンチエイジングとは、各年齢におけるいろいろな生物学的加齢度を最適(オプティマル)な状態に保ち、長寿を楽しむための医学であり、それを実践する日々の活動なのです。アンチエイジングには世代ごとに3つのテーマがあります。
- 見た目のアンチエイジング
- 長生きのアンチエイジング
- 脳をまもるアンチエイジング
です。
脳トレで、ボケ予防というのが最近はやっていますね。でも、脳トレで認知症が予防可能かどうかははっきりわかっていません。そのようなデータを示す研究はあまりないのです。最近、『米国医師会誌』(JAMA)に発表された研究では、高齢のカトリックの修道女や修道士801人が調査されました。この結果、新聞を読むといった脳を刺激する活動がアルツハイマー病のリスクを減らすという結果が出ています。知的活動よりも、はっきりと認知症を減らすことが分かっているのは、運動です。カナダで、4615人の高齢者を5年間追跡したコホート研究があります。週3回以上の運動習慣がある人は、アルツハイマー型認知症を発症する危険度が、運動習慣がない人の半分だったという結果が出ています。特に、ウォーキングなどの大きな力がいらない有酸素運動が最もいいようで、8000歩以上の散歩を週3回以上続けるのがお勧めです。運動は脳の活性化や血流を増す効果の他に、血中の脂質(コレステロール・中性脂肪)の改善を起こします。アルツハイマー病はコレステロールが低い人には起こりにくいことがわかっているのです。
認知症の予防によいことがわかっているもの
予防法 | エビデンス | 推奨される量 | 危険性を減らす割合 |
アルコール | とても高い | ワイン1~2杯、週に3~4杯以下 | 70%低下 |
アスピリン | とても高い | 一日175 mg以下 | 30~55% |
CoQ10 | 高い | 一日400 mg ~ 1200 mg | 44% |
オメガ3脂肪酸 | とても高い | 青魚、オリーブ油、カズノコ | 30~50% |
運動 | とても高い | 1日30分以上、週3回以上 | 50% |
精神活動 | とても高い | 毎日1時間以上 | AD 33%, 認知機能47% |
スタチン | 高い | 薬の種類による | 50~79% |
「コレステロールが高ければ心筋梗塞や脳卒中になりやすい」というのがこれまでの一般の常識でしたが、最近の多くの研究により、話はそう単純ではないということが判ってきています。
- 日本人の全死亡率(全ての原因による死亡を合わせたもの)については総コレステロールは低すぎても、高すぎても死亡率が高い。
- 虚血性心疾患による死亡に関しては、総コレステロールは高ければ高いほど死亡率が高い(Circ J, 2008)。
- 脳卒中死に関しては、総コレステロールは血圧が正常の場合にだけ、高いほうが死亡率を高くし、高血圧がある場合にはコレステロールが低いほうが死亡率が高い(Lancet, 2007)。これはコレステロールパラドックスと呼ばれ、発表当時大いに話題になりました。
一方、コレステロールを善玉(HDL)と悪玉(LDL)に分けたものでは、LDLコレステロールが高いということは、一貫して脳卒中、虚血性心疾患の死亡率を上昇させることがわかっており、これは善玉のHDLコレステロールが低いときに顕著であることがわかっています。また、治療によりLDLコレステロールを下げると虚血性心疾患や脳卒中を減らすことができます(N Engl J Med, 2008)。従って最近では、総コレステロールの値よりも、LDLコレステロールとHDLコレステロールが治療の指標に使われます。現在は、非常に良い薬が出ていて、これらの値が心配な方は、ぜひ医師に相談することをお勧めします。薬剤による治療のほうが、運動療法や食事療法より簡単で効果が高い場合もあります。最近は、コレステロールは気にする必要がないというような本が出回っていますが、ちゃんと気にしたほうがいいようです。
認知症の代表格、アルツハイマー病とコレステロールは非常に深い関係があります(Eur J Pharmacol. 2008)。
- 動脈硬化のある人はアルツハイマー病になりやすい。
- 高コレステロール血症のある人はアルツハイマー病になりやすい。
- コレステロール結合蛋白のApoE遺伝子がε4型の人はアルツハイマー病になりやすい。
- 動物性脂肪など飽和脂肪酸を多く摂取する人はアルツハイマー病になりやすい
などの事実があります。一方、コレステロール代謝を改善するDHAなどのオメガ3不飽和脂肪酸(魚油やオリーブ油に含有)を多く摂る人にはアルツハイマー病の発生が少ないことがわかっています。極めつけなのは、スタチンという薬で高コレステロール血症を治療すると、アルツハイマー病の発生率が大幅に減ることです(Neurology. 2008)。健診などで、コレステロールが高い状態、特にLDLコレステロールが高い状態があったら、ぜひ医師に相談してください。
妊娠したら、葉酸を一日0.4mg以上摂るように厚生労働省が推奨していますね。これは、妊娠中に葉酸が不足すると二分脊椎(神経間閉鎖不全)という奇形が赤ちゃんに起こることが知られているからです。葉酸摂取が徹底されてから、背中が割れて生まれてくる赤ちゃんがほとんど見られなくなりました。最近、葉酸摂取が、脳卒中予防に良いのではといわれており、実際に二分脊椎予防のため穀物に葉酸を添加することが義務付けられた米国やカナダでは、葉酸添加開始後の1998年以降に脳卒中死亡率が低下している現象が認められています(Circulation, 2006)。最近、Lancetという権威ある医学雑誌にも、葉酸の脳卒中予防効果に関する複数の臨床試験を総合した解析(メタ解析)の結果が発表されました(Lancet, 2007)。その結果によると、葉酸を摂取すると、脳卒中の危険が18%減ることが確認されました。葉酸は、ホモシステインという動脈硬化を進行させるアミノ酸の一種の血中濃度を低下させるため脳卒中を予防する効果があるのだといわれています。葉酸は、ホウレンソウなど緑黄色野菜や果物に多く含まれます。野菜などをたくさん食べたり、サプリメントとして葉酸を摂取することで是非、脳卒中を予防しましょう。
ビタミン剤などのサプリメントは無害だと信じている方が多いと思います。しかし、最近ビタミンEのサプリメントによる過剰摂取は健康に悪影響があるのではというデータが数多く発表されています。1日400単位以上のビタミンE摂取は死亡率を増加させるという大規模メタ解析研究が相次いで発表され(Ann Intern Med, 2005, JAMA, 2007)、医師たちにショックを与えたのはつい最近のことです。また、ビタミンEは抗酸化作用により癌の発生率を減らすのではないかと予測されていましたが、ビタミンEを摂取しても、肺癌のリスクは低下せず、逆に喫煙者にて肺癌のリスクが増加することがわかっています(Am J Respir Crit Care Med, 2008)。極めつけは、ビタミンEが中高年男性の脳出血のリスクを1.7倍に増加させるというものです(JAMA, 2008)。この研究では、ビタミンCとビタミンE摂取の心血管系疾患の発症に与える効果を米国人男性医師1万4641人のコホートで調査、ビタミンCは疾患発症に影響がなく、ビタミンEは心疾患の発症リスクを減らさず、脳出血のリスクを逆に上げてしまうという結果が得られたものです。このような情報は一般の方々には入手が困難なことも多く、サプリメントを服用する際には、できればアンチエイジング専門医にご相談するのがいいでしょう。
老化を防ぐという意味で食品中、野菜や果物は最も重要な部類に入ります。古くから野菜や果物に含まれるビタミンなどの成分と認知症(アルツハイマー病)との発症の関係が研究されています。シカゴの調査(Chicago Health and Aging Project; JAMA, 2002)では、食事中のビタミンEの摂取量が多い群では少ない群よりアルツハイマー病になる危険率が70%少ないという結果がでました。また、ロッテルダムの調査(JAMA, 2002)でも、ビタミンC(相対リスク0.66)とビタミンE(相対リスク0.57)と摂取が多い人でのアルツハイマー病発症は約半分になるという結果が得られています。最近では、Morrisらは65歳以上の3,718人を対象としたコホート研究で、野菜・果物の摂取量と認知機能の低下速度を3~6年にわたり調査した結果、野菜を1日あたり0.9皿しか摂らない群に対して、2.8~4.1皿摂った群では40%も認知機能の低下速度が遅かったと報告しています(CHAP研究; Neurology, 2006)。興味深いことに、果物にはこの効果はなく、野菜の中では緑色野菜が最も効果が高く、ついで黄色野菜の作用が高いということもわかりました。Morrisらは、野菜のほうが果物よりビタミンEの濃度が高いこと、野菜を食べるときにはドレッシングなどでオイルを用いることで、ビタミンE・カロテノイド・フラボノイドなどオイルに溶けやすいビタミンの吸収がよくなるのではないかと推定しています。オメガ-3脂肪酸が多いオリーブオイルベースのドレッシングで緑黄色野菜をたっぷりとることが認知症予防に肝要なようです。
脳卒中を防ぐのに非常に効果のある方法があります。それは高血圧の治療をするということです(Clin Exp Hypertens, 2006)。これは、様々なコホート研究や介入研究にて証明され、第一級のエビデンスとして認められています。高血圧の人では拡張期血圧(下の血圧)が7.5 mmHg増えるごとに脳卒中の危険が46%も増えることがわかっています。逆に、高血圧がある人では平均血圧を5.8 mmHgさげると脳卒中の危険が42%減ることがわかっています。どのくらいの血圧がいいかというと、130/80 mmHg以下にすることが理想的とされています。下げる方法は、第一に生活習慣を変えること。それは、運動をすること、大量飲酒をやめて適量の飲酒をすること、DHA/EPAを含む魚の摂取です。それでも血圧が高い人では薬での治療が必要です。現在はいろいろなよい薬が出ていて、その人に合った治療法を脳卒中の予防などに詳しい医師に選んでもらうのがいいでしょう。高齢者では、血圧を下げすぎると、立ちくらみ(起立性低血圧)が起こり、失神して倒れ、骨折したり、頭を打って寝たきりになってしまう恐れもあります。脳の循環状態を評価しつつ、薬の調節をしてもらうことも必要です。
最近、多数の女性看護師を25年以上にわたり観察したコホート研究の結果が発表されました(BMJ, 2008)。これは米国の34才から59才の女性看護師7万7,787名を1980年から2008年まで追跡したものです。その結果、女性の長寿に対するリスク因子として5つの生活習慣が明らかになりました。それは、
- 喫煙をしている
- 太りすぎている
- 中等度以上の運動をしない
- 適量のアルコールを飲まない
- 食生活が適切ではない
の5つです。注目されるのは「適量のアルコールを飲まない」という生活習慣であり、アルコールは少量ならば、寿命を延長する効果があることが判明したことです。アルコールはもちろん飲みすぎると肝臓を悪くし、最悪の場合アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変の原因になり、明らかに健康に悪いのですが、少量(男性では20g、女性では10g)を飲むのならば、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患などの予防効果があることが知られています。
貝原益軒の「養生訓」には、「酒は天の美禄なり。少しのめば陽気を助け、血気をやはらげ、食気をめぐらし、愁いを去り、興を発してはなはだ人に益あり。多くのめば、又よくひとを害する事、酒に過ぎたるものなし。」とあります。ところがこれまで、お酒、ビールはダイエットや糖尿病に悪玉であるように言われ、お酒の好きなお父さんを悲しませてきました。ところが最近は、お酒それ自体は適量を飲む限り、メタボリック症候群や糖尿病に決して悪いものではなく、むしろ糖尿病の発症を予防する効果(Diabetes Care, 2007; Metabolism, 2008; Endocr Metab Immune Disord Drug Targets. 2008)や動脈硬化・高血圧を予防する効果(Clin Cardiol. 2008)があることが判ってきました。多くのコホート研究の成果をまとめたメタ解析とよばれる研究でもそれがまちがいのない事実であると認定されています。「お酒それ自体」はというのは、同時に食べ過ぎることによりカロリー過多にならないという条件付きです。適量というのは男性では20g、女性では10g程度のアルコールで、これはワインでは2杯、日本酒では2合、ビールではジョッキ1杯程度までに相当します。これ以上飲むと(40g以上/日)逆に糖尿病の発症率を高めるというデータがでています。いずれにしても、適量を楽しむならば、お酒はアンチエイジングの味方のようです。益軒いわく「酒は半酔にてのめば、長生の薬となる」。
(1) カズノコ
カズノコはコレステロールが370mg/100gと多いため、コレステロールの高い人では敬遠されがちですが、実は動物実験などでは、逆にコレステロールを下げる効果があることが分かっています。カズノコにはオメガ-3系の多価不飽和脂肪酸である、DHA, EPAが他の魚介類に比べ抜群に多いことが分かっており(EPA 0.41 g/100g, DHA 0.87 g/100g)、こうしたオメガ-3の健康効果を期待できます。血圧低下作用、中性脂肪低下効果、虚血性心疾患の予防効果などが、外国のコホート研究などで分かっています。塩蔵されたものは塩分が多いのですが、塩ぬきしたものは大丈夫です。そのまま食べるか、薄味の料理で味わうのが健康のコツです。留萌コホートピアでは、こうしたカズノコの健康効果を証明する研究を行い、地域ブランド化を図ろうと思います。
(2) エビ・タコ
留萌のエビのおいしさは日本一ですね。エビは高タンパクで低脂肪、糖質はほとんど含まないのでダイエットに好適な食材。アマエビの甘みはアミノ酸のグリシン+とろみによるものですので、血糖値が気になる方でも、どんどん食べてかまいません。ただし、お醤油は少なめにつけて、海老本来のうまみを生かすのが健康のコツです。カルシウムとビタミンEを極めて多く含むことも分かっています。アミノ酸のうちでもタウリンを多く含むので、コレステロールの胆汁酸からの排出を促し、動脈硬化、糖尿病、心不全などの生活習慣病に対する効果が一部ですが期待でき、中高年に好適な食べ物といえましょう。同じような低カロリー・高蛋白食品としてはタコがあります。80%が水分ですが、残りの大部分はタンパク質で、脂質・糖質はほとんど含まれず、タウリンが多く含まれます。エビ・タコは留萌のおいしいメタボリック症候群予防食品として、今後注目を集めてもいいと思います。
(3) カボチャ
留萌管内ではカボチャの生産が盛んですね。カボチャは抗酸化作用のあるビタミンA、C、Eを3つとも多く含んでおり、野菜のエース(ACE)といっていい食材です。かぼちゃの黄色はβカロテン(体内でビタミンAに変換)の色です。βカロテンはカボチャ100gあたり4,000μg、ビタミンCは43mg、ビタミンEは5.3mgも入っています。カボチャ100gだけでこれらビタミンの1日所要量の半分が摂れてしまう計算です。βカロテンは、ビタミンCとEとともに働くと強い抗酸化作用を発揮します。また、カボチャにはビタミンB1、B2も豊富に入っており、カロリー燃焼を効率的にする効果が期待できます。また、便秘を改善し大腸がんの予防効果がある食物繊維、高血圧を防ぐ働きがあるカリウムも豊富です。かぼちゃはカロリーも100gあたり82Kcalとご飯の約1/2ですし、GI値は60と白米の70と比べ特別高いわけではありません。適量のカボチャを楽しむことでアンチエイジング効果が期待できます。
アンチエイジングはいったい何歳頃から始めたらいいのでしょうか?そういう疑問が自然に生じると思います。年をとって体がボロボロになってからではたぶん遅いでしょう。沖縄クライシスという現象があります1)。沖縄県は以前は日本一いや世界一の長寿地域でした。それが、2000年の都道府県別の平均寿命では女性は1位を堅持したのですが、男性は26位まで下がってしまいました。これは、蛋白源として魚よりも肉を中心とする欧米型のライフスタイルがかなり以前から浸透しており、それが今になって現れたのだといわれています。事実、沖縄に初めてファーストフード店が登場したのは1963年であり、東京より8年早い時期です。30年以上たってから、食生活が死亡率に反映されたのです(沖縄医師会のページ)。生活習慣病対策としてのアンチエイジングはできるだけ早い時期からはじめるのがいいといわれています。現在、学校教育の現場では、ジャンクフード、テレビゲームによる運動不足、運動する場所の減少により、肥満、小児糖尿病、小児高血圧が増えています。さらに、最近は、アンチエイジングは胎児期から重要だといわれています。このごろの若いお母さんは、妊娠中の体重増加を気にして、ダイエットします。「小さく生んで大きく育てる」という言葉がはやっているようですが、妊娠中の低栄養によって低体重で生まれた子供は将来成人病(生活習慣病)にかかりやすいということがわかっています(アンチエイジング医学, 2008福岡秀興: 胎児期からのアンチエイジング. −成人病胎児期発症説− アンチ・エイジング医学 4: 354-362, 2008)。胎児期に、遺伝子の発現の仕方が省エネ型にセットされるのだという説が有力です2)。妊娠中は適正体重を維持することが、その子の将来にとっても大事なのです。
アンチエイジングというと、引き締まった身体のラインやみずみずしいお肌のことを思い浮かべる人が多いと思いますが、お口の中にアンチエイジングの秘訣があることは余り知られていないと思います。お年寄りではだんだんと歯が抜けて、入れ歯になってしまうというのが一般の通念だと思います。この歯が抜けるのは「歯周病」が原因です。いわゆる歯槽膿漏というやつ。歯周病は実は、老化を促進することがわかっています。歯茎に炎症があることによりTNF-α(ティエヌエフアルファ)という炎症タンパクが放出され、インスリン抵抗性を悪化させ肥満や糖尿病の原因になったり、動脈硬化を進展させることが最近の報告でわかっています(N Engl J Med 356: 911-920, 2007)。歯周病を治療すると、血管の老化を防ぎ、脳梗塞や心筋梗塞、下肢血管閉塞などの重大な病気の予防につながります。それに、歯が抜けてしまっては栄養がうまくとれないことになるし、イカ・タコなどの食べ物の歯ごたえを楽しむことも難しくなります。歯周病の存在はその他、老人の肺炎の発症率と関係していることがわかっています。食事の後の歯みがきや定期的な歯科医によるチェックを受けることが、サクセスフルエイジング(成功加齢)のために重要なのです。
コーヒーは真っ黒で苦く、一見カラダに悪そうですが、心疾患、糖尿病、肝臓がん・大腸がんに対する予防効果に関するエビデンスが報告されています。一方で、コーヒーの発がん性を示唆する報告があります。最近、大規模なコホート研究で、こうした論争に結論を出す成果が得られました(Ann Intern Med, 2008)。この研究はハーバード大学などで行っている医療保険職に従事する約13万人の人々を18年~24年間追跡調査したものです。その結果によると、コーヒー摂取量の増加に伴う死亡リスクの上昇は認められず、むしろ、摂取量が増えるに従い死亡リスクは低下することがわかりました。つまり、コーヒーを飲んでもカラダには悪くないという結論です。死亡リスクの低下の原因は、コーヒー飲用による心血管疾患の死亡リスクの低下に伴って起こることがわかりました。この効果は、カフェインの入っていないコーヒーでも認められることから、カフェイン以外のコーヒー成分によるものであると推定されます。現在、こうした予防効果を持つ物質の有力な候補としてはコーヒーに含まれるフェノール化合物クロロゲン酸が挙げられます。クロロゲン酸には抗炎症作用やインスリン抵抗性の改善効果、抗酸化作用があることが明らかになっており、そうした作用が動脈硬化予防に役立つのではと考えられています。
健康寿命という言葉があります。日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間のことをいいます。2002年のWHO保健レポートでは日本人の健康寿命は73.6歳で世界一です。脳卒中や認知症などの脳の病気とともに、お年寄りの生活の自立にとって非常に大きな問題は、転倒による骨折です。特に大腿骨頚部骨折、つまり、脚の付け根・股関節の骨折は、治っても1/3が自由な外出が困難になったり、1/4が寝たきりになるなど(日本医事新報, 2004)、健康寿命に対する大きなリスクです。転倒は、脳卒中や認知症などがない方では、「運動器不安定症」という、筋骨格系の障害によって転倒しやすくなる状態が大腿骨頚部骨折の大きな原因です。運動器不安定症の診断は、片脚立ちがふらつかずに15秒以上できない、または椅子に座った状態から立ち上がり3メートルのところまで行って引き返し椅子に座るまでが11秒未満でできない状態と定義されます。こうした状態を改善するのが日々の運動、特にバランス運動であることがわかっています。おもしろいことに運動の種類としては、太極拳が最も効果があることが大規模なコホート研究のまとめでわかっています(JAMA, 1995)。そういえば、太極拳はゆっくりと全身のバランスをとり脚を上げる運動を行いますので、転倒予防に大きな効果があるのはうなずけますね。
最近、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)により、「食物・栄養・身体活動とがん予防 - 世界的展望」というレポートの10年ぶりの改訂版が出版されました。このレポートでは、さまざまな食品や生活習慣が発がんに及ぼす影響を評価しています。そして、以下のような食事・生活習慣指針を提案しています。①体脂肪:体重を増やす飲食物を制限し、正常な体重の範囲でできるだけやせる(乳がん・大腸がん・肝臓がんなど)、②身体活動:日常生活の中で活動的になる(大腸がん)、③植物性の食事:植物からできた食品を中心に摂る(食道がん、胃がん、大腸がんなど)、④動物性の食事:赤み肉を制限し、保存肉(ソーセージ、ベーコンなど)を避ける(大腸がん)、⑤アルコール飲料:お酒を制限する(口腔がん、咽頭がん、、食道がんなど)、⑥保存・加工・調理:塩を制限する(胃癌)、⑦アフラトキシン:カビの生えた穀物や豆類を避ける(肝臓がん)、⑧サプリメント:食事だけで必要な栄養がとれるようにする(肺癌など)、⑨授乳:母は授乳し、子には母乳を飲ませる(乳がん、小児がん)、⑩喫煙:たばこはけっして吸わない(多くのがん)。こうした生活習慣の多くは、動脈硬化を予防し、将来脳卒中や心筋梗塞にならないために行うものとかなり共通していますね。
冬はツルツルの道路で滑って転んでしまい、大怪我をしてしまう場合があり注意が必要です。特にエストロゲンの分泌低下により骨密度が低くなってくる老年期の女性では、転倒で脚の付け根の大腿骨頚部骨折や脊椎の圧迫骨折を起こし、寝たきりになって寿命を縮めてしまう場合も少なくありません。若い女性では、将来の骨密度の低下に備えて十分な骨量を得るための栄養・運動が大事ですし、高齢女性では転倒予防のためのトレーニング(歩行・バランス運動)や骨密度を減少させないための食生活が極めて大事です。食品ではビタミンDやカルシウムを十分にとることが重要ですが、大豆が意外と骨粗しょう症にいいということがわかっています。それは大豆に含まれるイソフラボンがエストロゲンに類似する構造をしていて、女性ホルモンの不足をある程度補ってくれることが期待されるからです。香港での調査では、大豆の摂取量が多い女性ほど骨密度が高いことが分かっています(Osteoporos Int, 2003)。実際に大豆イソフラボンを摂取してもらう介入試験では、米国の研究(Am J Clin Nutr, 1998)、イタリアの研究(J Bone Miner Res, 2002)、英国の研究(Am J Clin Nutr, 2004)、日本の研究(J Bone Miner Res, 2006)により、イソフラボンは長期間の骨密度減少を抑制するという結果が得られています。イソフラボンは、きなこ・納豆・豆腐製品に多いようです。北海道は大豆の日本最大の生産地ですし、留萌でも大豆栽培は盛んです。地産地消で骨を丈夫にして長生きいたしましょう。
健康のため、コレステロールを気にしている方も多いと思います。しかし、過剰にコレステロールを気にして食生活を制限するとかえって心筋梗塞や死亡率が上昇するという日本のコホート研究の結果が最近報告されています。その研究では、高コレステロール血症の患者約5,000人を6年間追跡したものです。その結果、調査開始時に食事指導をしていた群が、しなかった群に比べて2.87倍も心筋梗塞の発症が増えたことが報告されました。その理由として、バターをやめてマーガリンにすることを勧めたため、リノール酸やトランス脂肪酸の摂取が増えたことや、強力にコレステロール制限を勧めたため、魚や魚卵を食べることまで制限してしまい、オメガ-3不飽和脂肪酸(EPAやDHA)などの良質の脂質摂取が減り、動脈硬化の進展に悪影響を与えたのではないかと推定されています。また、2008年には40才以上60才未満の日本人男女4万2000人を対象にした調査結果が発表されましたが、魚の摂取が多い群では、コレステロール摂取が他の群に比べて最も多いにもかかわらず、心筋梗塞の発症が最も少ないことがわかりました(Circulation, 2006)。魚の摂取が1日平均180gの群ではコレステロール摂取が517mgに達していて、魚の摂取が平均23gと少ない群ではコレステロール摂取が197mgと少ないという結果でした。こうした心筋梗塞になりにくい魚をよく食べる人では、卵や魚卵を良く食べていることも判明しました。結局、日本人でのコレステロール制限はEPAやDHAの豊富な魚や魚卵の摂取を減らすことで、かえって健康に悪いことがわかったのです。留萌のお魚を自信をもってよく食べてくださいね。
下の写真には2人の女性が写っていますが、52歳になる1卵性双生児の姉妹です。しかし、左側の女性(A)に比べ右側の女性(B)は頬にシワが多く、年齢の割りにはずいぶん老けてみえますね。実は、右側の女性は20年以上タバコを吸い続け(平均約2箱/日)、左側の方はタバコを吸っていなかったのです。「タバコ=肺がん」というのが一般の理解ですが、タバコはお肌のアンチエイジングの大敵なのです。タバコはまた血管の老化を確実に促進しますし、肺の柔らかさにダメ—ジを与えて年を取った後、心筋梗塞、脳梗塞、慢性閉塞性肺疾患にて苦しむことになります。ただし、タバコには思わぬ病気の予防効果があることがわかっています。それは、タバコを吸う人にはパーキンソン病が少ないという事実です。タバコのニコチンがパーキンソン病で少なくなるドーパミン作動性ニューロンを保護するのではと考えられています。でも、若々しいからだを保つためにはタバコはやめといたほうがいいですね。人は血管から老いるのです。
from Doshi DN et al. Smoking and Skin Aging in Identical Twins. Arch Dermatol 143: 1543-1546, 2007
最近、4,025名もの女性の肌の状態と食事との関係を調査した大規模な研究の結果が発表されました(Am J Clin Nutr, 2007)。それによると、ビタミンCを多く摂る女性はシワの程度が少なく、老化による皮膚の乾燥も少ないことがわかりました。また、植物性油脂であるリノール酸(linoleic acid)を多く摂る女性では老化による皮膚の乾燥と委縮が少ないことがわかりました。さらに、動物性脂肪や炭水化物の過剰摂取はシワと皮膚の委縮を増やすことも判明しました。これらの関係は、年齢、人種、教育レベル、日光への暴露、収入、生理、BMI、サプリメントの使用、運動、カロリー摂取量などとは独立な関係であることもわかりました。つまり、野菜などのビタミンCに富む食事と植物性油脂が大事で、動物性脂肪や炭水化物の取りすぎによる肥満を防ぐという若い女性が常に心がけていることが、科学的にも肌の老化を防ぐことが分かったわけです。
頭がさびしくなってきた男性、抜け毛が気になる女性のどちらにとっても、いつまでも髪は色艶よくフサフサとありたいものです。しっかりとしたエビデンスがある薬剤としては、毛母細胞を活性化させるミノキシジル(リアップ大正製薬の局所用指定医薬品です)や脱毛を起すホルモンの産生を抑制するフィナステリド(プロペシア万有製薬の経口用処方医薬品です)がありますが、栄養と髪の健康については意外と知られていません。しかし、極端なダイエットを行う女性がひどい脱毛を起し泣きながら病院を訪れる例が最近増えてきています。極度の低タンパクはクワシオルコルまたはマラスムスという状態を起し、頭皮にはフケが多くなり、毛は細く、枝毛になったり折れやすくなり、抜け落ちます。ビタミンDの不足でも、脱毛の原因となります。髪の健康には皮膚の健康と同様に必須脂肪酸であるオメガ6とオメガ3の不飽和脂肪酸の摂取比を適切に保つことも重要です。オメガ6は野菜や肉類に、オメガ3は魚類やオリーブ油に含まれ、5:1位の比でとるのがよいとされますが、現代のような肉食が多くなりがちな食生活ではオメガ6の比率が多くなりフケ症で細毛の髪になる傾向があるといわれます。一方、野菜ばかりをダイエットのため食べる女性には鉄欠乏が起こりやすいのですが、動物性タンパク質にのみ多くふくまれるアミノ酸L-リシンも欠乏しがちとなり、脱毛の原因となることがあります。こうした場合、病院で鉄剤のみを処方されても、必須アミノ酸であるリシンも補給できなければ鉄や亜鉛が取り込まれず、脱毛の症状が改善しません。カラスの濡れ羽と賞される女性の美しい髪を保つには、むやみなダイエットによる栄養不足に注意が必要です。(参考文献:Rushton DH: Nutritional factors and hair loss. Clin Exp Dermatol 27: 396-404, 2002)
多くの女性たちが愛してやまない「アンチエイジング化粧品」は本当に効くのでしょうか?答えはほとんどの場合、ノーです。多くの化粧品会社の戦略は、「リピーターを増やすためだけの効果を持たせる」というものです。実際に科学的エビデンスのある化粧品を作ろうというところは、ほんの一握りしかありません。リピーターを増やすだけの効果とは「保湿機能」です。保湿成分が他の化粧品より多ければ、潤い感が強く感じられるので、「アンチエイジング」にいいのではという使用感が得られるのです。その他、含まれる諸々の成分は、ほとんどが名前が有名になっただけのイメージ成分であり、効果があるというしっかりとした科学的エビデンスはありません。そのイメージ成分の1つにはコラーゲンがあります。コラーゲンは分子量が大きく、肌には吸収されませんが、コラーゲンのイメージは一般女性に広く浸透し、保湿効果が大きいので化粧品の販売戦略としては非常に重要な成分と考えられます。もちろん、コラーゲンが入っていてもアンチエイジングには全く効かないことは様々な医学研究で既に実証されています。現在のところ、医学的エビデンスのあるアンチエイジング成分としては、レチノイン酸(Dermatol Ther, 2006, Cochrane Database Syst Rev, 2005)、高濃度ビタミンC/E(Dermatol Ther, 2007)、ハイドロキノン(Dermatol Ther, 2008)などが挙げられます。そのうちレチノイン酸は催奇形性が問題となり、認可されておらず、皮膚科医などによる調合薬として使われています。化粧品としては効果がかなり低い(約1/300)レチノール(ビタミンA)が使われます。ハイドロキノンは最近、化粧品にも1~2%程度配合されたものが販売されるようになりました。ビタミンC/Eは多くの化粧品が含んでいる成分ですが、高濃度で吸収されやすい形のものは、1~2社の製品に限定されます。アンチエイジング化粧品も、アンチエイジング専門医のアドバイスを受け、本当にエビデンスがあるものを賢く選びたいものです。