コラム  高齢社会の課題と科学
 
 寿命という言葉は、命を寿ぐ(ことほぐ)と書きます。長生きを祝うという意味です。日本は世界一の長寿国です。昭和22年の男性の平均余命は50.06歳、女性は53.96歳でした。これがわずか60年で、男性は79.59歳、女性は86.44歳になりました。女性は25年連続世界一、男性も世界第4位(といっても上位とは少数以下の違い)で、男女合わせて世界一です。一方、日本経済新聞社が「北海道2030年の未来像」と題し、北海道の人口構造を予測したデータの結果、2000年から2030年で人口は約18.3%減少するものの、65歳以上の高齢者は、全体で約57%増え、特に女性は約65%も増えると予測するデータもあります。この60年間、先輩たちが額に汗して働いて下さった結果が世界一という大きな成果を生みました。その先輩たちが今お年寄りになられ、高齢者問題などと取り沙汰たされていますが、祝うべきことです。一方、社会は高齢化に追いつけていないのが現状です。青信号の長さも、階段の段差も、食品のパックの大きさも、みんな若い人を対象にして組み立てられています。お年寄りに優しい社会、生活習慣を明らかにする科学的な取り組みが、いまほど望まれる時代はありません。高齢化に伴う認知症の増加も大きな問題の1つです。早期認知症の検出方策の検討や、お財布にお金を一杯詰め込んで買い物するのを防ぐための電子マネーの利用など高齢社会に向けた有効な手段を講じていくことが重要です。世界一ということは、他の国の先輩でもあり、快適な長寿社会を形成するノウハウは、世界中の人が望んでやまない希望です。そこには、新しい産業の可能性もあります。長寿、長生きを寿ぐ工夫を、日本へ、そして世界へ、留萌から発信する研究として市民の皆様とともに考え、実践しましょう。 (札幌医科大学医学部教授 小海 康夫)
 
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